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『日々草は冬を越す』サンプル


 この学院に入って初めての面会日はぴーかんだった。晴れ渡った空と同じくらい、アタシの心には雲一つ無かった。

「うおぉぉぉ。みさきぃぃぃ!」

「パパ!」

 アタシを目にした途端、弾丸の様にパパが飛び出してくる。アタシはその弾丸を身体全体で受け止め、がっしりと抱擁する。

「あらあら、猪早夫さんったら」

「ばう!」

 シロも来てくれて、久々に家族が勢揃いだ。

「みさきぃぃ。パパと離ればなれになって寂しくなかったか?」

「うん! いやー、お嬢様学校ってすごいね。驚きの連続だよ」

「そ、そうか……」

「オー、サビシイのは、シャッチョサンのホウね」

「猪早夫さんたら、ここのところ毎晩、美綺がいないと寂しいって言ってたのよ」

「さ、聡子さん。その話は秘密にしてもらえんかのう」

「もう、パパったら。でも、心配してくれてたんだね。ありがとうパパ!」

「うおおおおおぉぉ。ワシは今最高に幸せじゃあ」

 パパは雄叫びをあげて男泣きをする。相変わらず大げさだなあ。

「初めまして、相沢の担任をしています暁光一郎と申します」

 と、そこにいつもの爽やかスマイルで暁先生が挨拶に訪れる。

「あらあら、これはご丁寧にどうも」

「聡子さん。こんな男に丁寧に挨拶することは無いぞ」

 今までの上機嫌から、急にパパは不機嫌になる。まったく、いつまで経ってもパパは心配性だなぁ。

「えー。パパ、せっかく暁先生が挨拶に来てくれたんだから邪険にしちゃあだめだよ」

「オー、そうでっスよ。オヤがワルいとコドモもワルくミラレってしまいマース」

「ううむ、確かにワンボの言うことも一理あるな。あー、暁先生。学園での美綺はどんな感じですかな?」

 パパはしぶしぶと言った感じで暁先生と会話をする。何だか、三者面談にパパがやって来た様相になってきたよ。

「そうですね…、相沢は明るく活発でクラスのムードメーカー的な存在ですね」

「おお、そうかそうか。流石は美綺じゃわい」

 暁先生がアタシの事を褒めてる。何だか居心地が悪いなぁ。でも、パパは大変満足そうだ。

「ただ、授業中不真面目な点が見受けられるので、もう少し、勉学に真面目に取り組む必要があるかと思いますね」

「オー、このままデっハ、オジョウサンがワンボとおなじク、セイセキバットバットでタイガクになってしまうネ」

「何!? それはいかんぞ美綺。学校とは勉強をするための所なのだから、一生懸命勉強しなきゃだめだぞ」

 ありゃ、折角褒められたと思ったのに、すぐ釘を刺されたよ。流石、大人は如才ないなぁ。

「そんなこと言ったって、パパだってそんなに勉強できた訳じゃないんでしょ?」

「うっ…。いや……。それでもパパは一応一生懸命勉強したんじゃよ。それで結果が伴わなかったのは、まあ仕方がないことでな……」

「えー、でもパパは前に勉強よりも大事なことがあるって力説してたじゃない」

「あー、そんなこともあったかの? たぶん美綺の覚え違いじゃないのか?」

「そんなことないよ! ね、ママも覚えてるよね?」

「そうねぇ、そう言えばそんなこと言っていたわね」

「さ、聡子さん」

「オー、シャッチョサンもセイセキバットッバットだったカ。ワンボとオンナじネ」

「ワンボ、おまえと一緒にするな。ワシはちゃんと卒業してるわ」

「オーウ、これはイッポンとられたネ」

 久々にパパとママに会えてうれしい。ホームシックという訳ではなかったけど、やっぱり家族に会うと安心する。

「相沢のところは家族仲がいいな。やっぱり相沢自身も家族のことが好きなのか?」

 アタシが浮かれていると、それを察した暁先生がアタシにそっと耳打ちをしてくる。

「うん。大好きだよ」

 暁先生の問いかけに自信を持って答える。

「うん? 今とんでもない言葉が聞こえた気がするんじゃが」

 アタシに関することならどんなことでも逃さない。パパの地獄耳は今日も絶好調だ。

「オジョウサン、ねつれつナコクハクね。デッモ、ワンボにはオックサンがいるネ」

「ワンボ、おまえの事じゃない。暁光一郎! おまえ教師のくせにワシの美綺をたぶらかすとは、いったいどんな了見だ!」

「ゴメンね、パパ。ずっと黙っていたけどアタシ……」

「こっこっこ、こここ……」

「シャチョさん。ニワトリのマネうまいネ」

「殺ーす!」

 パパはそう叫ぶと暁先生へ一直線に向かっていく。そして。

「あっ、痛ったー!」

「HAHAHA! シャチョさんのかみつきヒサビサにみたネ」

 パパは暁先生の腕に噛みついた。暁先生はパパをふりほどこうと腕を振り回している。これってテレビで見た警察犬が犯人を取り押さえるところみたいだ。

「あらあら、猪早夫さん。だめですよむやみやたらに人に噛みついたりしたら」

「むぅ、聡子さんがいうなら仕方がない。おい! 暁光一郎! 命拾いしたな!」

「大丈夫ですか、暁先生」

「聡子さん、そんな奴に気を遣う必要なんてないぞ」

「猪早夫さん」

「ああ、聡子さん。ワシが間違っていた。だから、そんなに怒らんでくれ」

 ママの無言の怒りを感じ取って、パパは咄嗟にフォローにはいる。

「やっぱリ、ママさんが一番ネ」

 まだ学校に入学してから1ヶ月ぐらいだけど、やっぱりアタシは家族のことが大好きだ。離れてみて改めてそう思った。
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by iris-of-amber | 2001-06-09 22:00 | サンプル

『オーバータイム』サンプル

     1


「手伝いって……これ?」

「これだ。ちゃっちゃと運ぼうぜ」

 暗く仰々しい倉庫には大量の段ボールが積まれていた。奥の方には何が入っているのか、小型のコンテナらしき物も見える。懐中電灯の明かりだけではよく見えないが、ここもいずれ探索する必要があるだろう。

 体格のいい角刈りの男子生徒――板東善輝はルームメイトである鹿子木景の肩を叩くと、腕まくりをし直した。

「ほんと何でもあるなぁ。この学校」

 呆れたように呟く鹿子木を尻目に、板東は気合一発、山のような数の段ボールを抱えて扉の外へ出た。大柄な彼の頭を越えるほどだったが、危なげ無くガランガランと金属質な音を立てながら歩いていく。

「……僕はいらなかったんじゃないかな」

 鹿子木は足下に残された小さな段ボールを見て、何となく空しくなった。


 私立獅子ヶ崎学園――
 最新鋭設備とリゾートホテルばりの外観内装を備えた学校。生体波動認証PITAシステムに裏付けされた快適な学園生活は、しかし一つの悲劇により半年足らずで瓦解した。
 ハリケーンブラックと呼ばれた巨大台風によるメインシステム破壊――最新鋭設備が裏目に出た瞬間だった。
 システム開発者たちでも根本的な修理は不可能。頻出するトラブルにその都度対処することでしか、対応は出来ない。そんな何が起こるか分からない、悪い意味でのオモチャ箱になってしまっていた。
 となれば、修復が終わるまで他校に編入するのが一般的な流れだが、そうはならなかった。まだ始まったばかりの獅子ヶ先学園を、終わらせたくない人たちが居たからだ。
 そして悲劇と希望がない交ぜになったあの日からおよそ三ヶ月。
 今日も、彼ら――やってみよう会は、トラブルに立ち向かっていた。



    2


「会長。全生徒に物資、行き渡ったわよ」

「オッケー。それじゃあ全校放送……じゃなくて、朝礼台に行きましょうか。鳩子、メガホンは大丈夫?」

「もちろんもちろん。ほらこの通り」

 秋も深まり、獅子ヶ崎の暑さも大分退いた十一月。
 やってみよう会の面々が居るのはいつもの生徒会室ではなく、白波寮の前にある広場だった。そこでは全校生徒――と言っても一学年だが――が雑然と輪を作っている。

「なんだ、案外平気そうじゃない」

 生徒会長兼やってみよう会会長の蓮見一乃はその様子を見てほくそ笑み呟いた。楽観視ぐせのある彼女に釘を刺すのはもちろん、副会長である藤ヶ崎芹菜だ。

「二日目だからよ。これが幾日と続けば、嫌でも雰囲気は悪くなっていくわ」

「その辺は鷹子たちに頑張ってもらわないとね。アクセスポイントさえ見つければなんとかなるでしょ」

「これだけの規模の停電・ガス止め……これだけで済むのかしら」

 今回のトラブルは、学園全土に及ぶガスと電気の停止。
 昨日の午前七時から観測されたこの事案に対し、一乃の判断は早かった。授業は午前で切り上げ、午後からは食料・物資の調達と、朝食昼食を食べられなかった生徒への配給。そして、やってみよう会緊急会議と、プラン実行に必要な準備。それらを必死にこなしていたらいつの間にか翌日の午後三時になっていた。
 誰も不満は言わないが当然疲弊している。若さで押し切れる部分を考慮してもオーバーワークだ。選んだ道とは言え、多少は愚痴っぽく、そして悲観的になる。それは質実剛健という言葉を体言したような葉山鷹子すら同様で、唯一の例外は今でもニコニコしている鷹子の双子の姉、葉山鳩子くらいであろう。

「ほらほらお二人さん! 会長と副会長が暗い顔してちゃ駄目でしょ! カメラ映りが悪くなりますよ」

「今日はカメラ回らないから」

「しまったぁー! ごめんよ、カメラさん……」

 アップダウンの激しい鳩子を見て、ここ数ヶ月で多少険の取れた獅子ヶ崎学園のツートップはどちらともなく苦笑する。ともあれ、やることに困らないのは確かだ。一乃は引ったくるようにして鳩子からメガホンを受け取ると、移動式の朝礼台に上がり、肩から羽織った白ランを、颯爽と翻した。いつからか一乃のトレードマークになっていた生徒会長と墨で書かれたその白ランが、実はアガり症である一乃が自身を鼓舞するために強調されていることはまだ一般には知られていない。
 そんなわけで、ざわついていた生徒たちは演説台に立つ一乃を見ると自然と沈黙していき――生徒会長の第一声を待った。

「みん『フィィィーーーーーーーーン』」

 予想より遙かに甲高い第一声に、生徒たちは耳を塞ぐと同時に笑いだした。演説台の上では慌ててメガホンを交換している。

「ってぇ、こら鳩! ハウリングするじゃないこれ!」

「事故ですよ事故ー。そんなに怒らないでーん」

「……はぁ」

 一乃が格好つけると必ずオチが付く。やってみよう会発足から守られてきた不文律は今回も成立し、先ほどの沈黙も一乃の威厳というよりかは決定的瞬間を見逃すまいとする意識が働いたものだった。

「えーどうも皆さんお待たせしました。手元に資料や器具、材料は行き渡ってるかな?」

『はーーい』

 一通り笑うと獅子ヶ崎学園の結束は強い。今回のトラブルも、その深刻な内容とは逆に緊急企画化してしまうことで乗り切ろうとしている。「どうせやることが同じなら、楽しくやろう」が一乃のモットーである。そのためなら自分が笑い者になるのも厭わない辺りが一乃の生徒会長たる所以だろう。……多分。

「今回のやってみよう会主催特別企画は、秋の大キャンプ大会だ! しおりにもある通り、一泊から三泊というアバウトな企画よ。色々と問題が起きるでしょうから、何かあったらやってみよう会に連絡してちょうだい。あ、それからテントを張る場所は原則早い者勝ちだから、喧嘩はしないようにね! それと、夜は冷えるから気をつけて!」

 ここまで二十秒ほどしか喋っていないが、すでに生徒たちがそわそわしているのが壇上の一乃には見て取れた。胸の内でガッツポーズしつつ、最後の言葉を放つ。

「それじゃあみんな! 病気や怪我にだけ気をつけて――せいぜい、楽しんでやるわよ!」

 それは、この学校のシステムへの宣戦布告。
 お前の妨害くらいで、この学校はなくならない。お前の妨害は、かえって面白いイベントにしかならないぞ、という挑発。
 初めは生徒たちも戸惑っていたが、やってみると案外何とかなっていた。それは安全性が過剰に考慮された学校設計にも起因するが、自分たちの会長が――何となく、意識の外で選ばれていた会長が、誰よりも頼りになる人だと気づいたから。
 だから獅子ヶ崎学園は、多くの問題を抱えながらも運営されている。
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by iris-of-amber | 2001-06-09 21:45 | サンプル


SFと青春小説しか書かない(書けない)遠山悠夏の小説公開&広報&備忘録。


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